そろそろ温泉行きたくなる季節なので、「いい温泉」の定義と、見つけ方、選び方の話をします。
あっという間に秋めいてきました。肌寒くなるとやっぱり行きたくなります、温泉。秋冬にそなえて各旅行誌は温泉特集をゴリゴリ作っている最中でしょう。
トレンドは当然「インスタ映え」だろうなあと思い、他のお客さんに迷惑がかからないように温泉を楽しんでもらえたらとマジで願っています。湯船の周り、全員裸ですから。マナーめちゃくちゃ大事。
でも、インスタ映えのおかげでさびれた山奥の秘湯に人が集まったら温泉オタクとしては死ぬほどうれしいです。お金落としてください。
とはいえ、せっかくだから温泉の「質」も行き先を選ぶ判断材料にしてもらえたらいいなあと、個人的には思います。
私は全国各地をめぐる温泉ライターを経たのち、2年ほどじゃらんの編集者でした。訪れた温泉は現在300超ほど。達人とまでは言えませんが(温泉の世界には何千入ったという人がザラにいる)、それなりに重度な温泉オタクなので、読んでもらえたらありがたいです。
当然のことですが注釈。以下に書いているのはすべて個人の感想です。
温泉オタクが考える「いい温泉」とは何か
最初から細かい話ですが、「いい温泉地」と「いい温泉」は異なります。いい温泉地は、例えば銀山温泉のように趣があるとか、別府温泉郷のように泉質が豊富とか、箱根温泉郷のように都心からアクセスしやすいとか、土地柄や町一帯の特徴で判断するもの。
だいたい「いい温泉地」かどうかで判断して温泉旅行を計画する人が多いでしょう。本記事はその選んだ温泉地で泊まる宿、立ち寄る日帰り温泉施設の選び方の参考にしたり、願わくば「この温泉からあるからこの温泉地へ行こう」と思ってもらえたりしたらうれしいな、という感じです。
では、温泉オタクの私が考える「いい温泉」とは何か。ものすごく単純です。
・温泉の鮮度が良い
・源泉に近い状態である
ロケーション(オーシャンビューなどの絶景露天)については割愛します。ロケーションより大事なものがあるんだよこっちには。
温泉の鮮度が良い状態とは
ポイントは「どこから湧いているか」と「どのくらい湧いているか」。温泉は自然の産物なので当然時間が経てば古くなるもの。新しい状態であればあるほどいい温泉です。
① 掘って湧いた温泉より自然に湧いた温泉
そもそも温泉は、地中から湧いてくる水が「温度が25℃以上」か「指定された成分が一定量含まれている」状態であれば名乗っていいもの。地中を100m掘るごとに地下水の温度は2~3℃上がるので、1000m近く掘って湧出した地下水は「温泉」になるんですよ(都心部の温泉施設はものすごい地中深く掘ることで「温泉」を手に入れています)。
掘削が深ければ深いほど鮮度は落ちますし、温泉オタクとしてはやっぱり掘削ではなく「自然湧出」の温泉が断然いいです。自然湧出とはそのまま、温泉が自然に地上に湧きだしている状態を指します。自然湧出量で一番多いのは群馬県・草津温泉です。
ちなみに一番最高なのは「足元湧出」、湯船の底から直接自然湧出する温泉もこの世にはあります。
② なるべく近いところから湧いた温泉
源泉(湧出場所)から施設/宿(湯船)まで距離があれば「引湯」をします。源泉の位置はさまざま、近くの火山だったり裏手の田んぼだったり川底だったりします。温泉地だと湧出地として観光スポットにもなったり(別府や雲仙の「地獄(=温泉が湧いているところ)」など)しています。
引湯の距離が短ければ短いほど鮮度は良いと言えますが、ときどき「源泉が熱すぎるので冷ましながら」引湯をするところもあったりするのでそれはヨシとしたいです。
③ 自家源泉が一番いいけど分湯が悪いわけじゃない
源泉の管理者がその施設/宿であれば、直接湯船に運べるのでいい状態と言えます(=自家源泉)。しかし反対に、引湯をした後にまずタンクなどの施設に集め、各温泉施設や旅館に「分湯」する温泉地もあります。
自家源泉と比べるとどうしても度が落ちてしまいますが、掘削しすぎて枯れるなどを防ぐ温泉保護の観点に考えると、分湯は致し方なしなシステムです。
④ 湧出量が多ければ多いほどありがたい
上記のような旅を経て、ようやく温泉が湯船に注がれます。ここで気にしておきたいのが湧いている量、湯船に注がれる量。湧出量が多ければ温泉の回転率も上がるので、鮮度のいい状態をキープできていると言えます。湯船の大きさにも関係するので多いか少ないかは何とも言えない部分がありますが。とりあえず惜しげもなくドバドバ湯船に注いでくれてたらOKです。
時々「人が入ってきたらセンサーが働いてお湯をまた注ぎ始める」みたいな温泉がありますが、あれは湧出量にどうしても限界があるからです。鮮度でいえばなかなか厳しいのですが、泉質の個性的な温泉もあったりするので負けないで営業続けてほしいです。
源泉に近い状態とは
おそらく温泉オタクにとって一番重要な問題じゃないかなと思います。湯船に注がれている温泉が「どれだけ源泉に近いか」。
もちろん一番は、いわゆる「源泉かけ流し」であってほしい。でも、いろんな理由があってかけ流しにできない施設/宿も多いし、「かけ流し以外はクソ」とは全く思っていません。大きな湯船や貸切、露天風呂のかけ流しは難しいですから。温泉であるだけで等しく尊いよ。
しかしながらこの世には「かけ流しじゃないのにかけ流しを謳っちゃう」大変切ない施設/宿もあります。騙されないために「見分け方」をご紹介しましょう。
日本源泉かけ流し協会によると、「かけ流し」の定義は以下だそうです。
1.新しい湯を常に浴槽に注いでいること
2.注がれた分だけの湯が浴槽の外にあふれていること
3.あふれた湯は決して浴槽に戻さないこと
4.湯量の不足を補うために、浴槽内で循環ろ過させないこと
つまり、常にドバドバしていて、常にオーバーフローだということ。
ドバドバ&オーバーフローでも温泉を循環・ろ過させているところもあります。かけ流しかどうかの見分け方は、例えばこんなもの。
・湯船に温泉が噴き出す/温泉を吸う口がないか
・塩素のにおいがしないか
・湯口の温泉が湯船と温度差があるか
3項目にあてはまると循環ろ過の可能性が高いです。 詳しい解説は温泉ソムリエのサイトに書いてありましたので、そちらを見ていただければ。
どうして「源泉かけ流し」がいいのか
循環ろ過の温泉だと「温度が一定に保たれていて入浴しやすい」などの利点もあり、かけ流しと優劣は付けられないと思います。ただ、循環ろ過はどうしてもにおいや適応症(※いわゆる「効能」です)の部分が失われてしまう。温泉好きとしては「生の状態を五感で味わいたい」んですよね。
臭かったりすると「うおおお~~~ヤバいにおいがする~~~~」ってテンション上がりますし、成分によって石化・変色した湯船や湯口や床に、「めちゃくちゃこの温泉パワーあるな…なんだこれ…」ってすごい感動したりするんです。
そういう醍醐味はやはり源泉かけ流しだからこそ味わえる部分が多いので、どうしても譲れないポイントなのです。
源泉への加温・加水について
源泉が冷たすぎる/熱すぎる/成分濃すぎるなどの理由で、加温や加水などが施されるパターンもままあります。「湧出量が少ないからかさ増しのために」された加水は嫌だなあと思いますが、基本的には私は加温も加水も個性ではと感じています。
山奥の冷鉱泉を温めた温泉が時々ありますが、えっなにこのパリッとした爽快感…最高…てなったりします。
泉質より温泉の状態だと思う
ここまでずらずら書いてきましたが、あらためて「泉質」の話をします。
温泉の泉質は2017年9月現在、全部で10種類。それぞれに個性があるので、個人的には10種類に対する「良し悪し」はありません。好きとかはありますが。
日本で一番多い泉質は「単純泉」です。癖がなくやわらかく、老若男女問わず浸かれるお湯。あまり個性がないので「面白くない」と思われがちですが、アルカリ強すぎてトロットロだったり、硫黄のにおいが半端ない個性的な単純泉もあったりします。素敵な単純泉が湯船で味わえるのってやっぱり状態がいいからなんですよね…。
もちろん、三大美人泉質(炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、硫黄泉)を求めていくのもよし。個性的な体験であれば俄然酸性泉をおすすめしますし、においを楽しみたいなら含鉄泉や硫黄泉は間違いないでしょう。
とはいえ、いずれも最高の状態で湯船に注がれているからこその体験と適応症であるので、ぜひ私としては泉質にこだわらない温泉選びをしてもらえたらいいなあと思っています。
いい温泉の見つけ方、選び方
基本的に旅行誌が紹介している宿/施設はある意味ハズレなしですが、やはりロケーション(ビジュアル)で選んでいる部分もあるので、もう少し詳しく調べる必要があります。
そして残念ながら、今のインターネットにあまり分かりやすいデータベースはありません。地道に探すほかなし。
活用してもらいたいのがホームページビルダー感満載、旅好きおじさんの古(いにしえ)のサイトです。具体例を挙げるのは避けますがURLがgeocitiesだったりするような、2003年あたりから時が止まっているページだと思ってください。そういうサイトをいまだに運営されているおじさんが温泉業界には沢山います。
彼らのレポはとても真摯で、取材をしていないキュレーションメディアよりよっぽど情報が正確です。検索して「あ、なんだ古いページだ」と思わず、読んでもらいたいです。信じてください。温泉って何年も情報が変わらないなんてザラですから。
とはいえ最近はオシャレで見やすい温泉サイトも増えてきたように感じます。私がよく見るのは秘境温泉神秘の湯とか知られざる地元の名泉とか。写真もきれいなのでイメージ湧きやすいはず。
一番わかりやすいのはおそらく観光協会のサイト。最近はどこも大体予算かけてきれいなサイトを作っています。行きたい温泉地が決まったら観光協会で情報収集するのが確実です。
これは本当に傾向でしかなく全てに当てはまりませんが、「いい温泉」は大体その温泉地の「元湯」にあります。長野では「大湯」、北陸では「総湯」とも言います。宿の冠についていることもあれば、共同浴場の名前になっていることも。元湯は源泉を指す言葉で、いい状態の温泉である場合が多いです。つまるところ、観光協会のページで元湯を探すのが一番簡単かなと。
ちなみに取材をしていないキュレーションメディアの場合、巡るには距離が遠すぎたり、ものすごい辺鄙なところにあって行くのが大変なスポットも数多く紹介されていたりするので注意です。
さいごに言いたい:もちろん絶景露天も大好きだ~~~!
こんなマニアックな話を最後まで読んでくださり感謝感謝です。最近、浪費図鑑という本を読んでから「私ももっと浪費したいな…温泉もっと行きたいわ…」と思い、あらためて温泉への愛をぶつけてみました。7月に別府行ったけどそれっきりだもの。
湧出だの源泉だのなんだのむちゃくちゃと書きましたが、もちろん絶景露天も大好きです。インフィニティ風呂最高。インスタ映えする温泉に私も行きたい。どんなかたちであれ、ひとつでも多くの温泉が1日でも長く営業できるように心から何かしてあげたい(=お金を落としたい)と考える日々です。
でも、各地に何度も何日も行けるような人間ではないので、みなさんにちょっとだけでもお伝えして、もし訪れる際は「いい温泉」にお金が落ちればいいなあと思い書きました。少しでも届きますように…!
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