ひとりが好き、なわけないでしょう

年明けに母に会った時、「今年の目標はひとり旅なの」と告げられた。なんでまた唐突に、と聞くと、生まれてこの方ひとりで旅行をしたことがないのだと言 う。私は知らなかったのでひどく驚いたのだけれど、その一念発起は私や父に起因するものだとすぐに分かった。「お父さんやあなたはひとりで行ってしまうで しょう」と。わたしもその楽しみを知りたい、と。5月に北陸へ行くと聞いていたけれど、予定が合わず合流することはなかった。いやまあ、合流できなくて良 かったのかな。

感想は再会した時にとっておく。想像するに、あんまり楽しくなかったんじゃないかな。喋り相手はいないし、感動も寂しさも ひとり占めだし、振り回されることも振り回すこともない。そういうのを子供が成人した後のどちらかといえば出不精な女性が体験してみたところで、漫然とし た腑に落ちない時間を過ごすだけだと思う。

母から聞いた話。幼稚園の先生には「千晴ちゃんはみんなで遊びなさいと言ったらみんなで遊ぶけれど、自由に遊びなさいと言ったらひとりで遊ぶ子です」と言っていたそうだ。兄がいるけれどひとり遊びは得意な方で、泊まりがけのひとり旅は17歳から始まった。

別にひとりが好きな訳じゃない。気楽だとは思うけれど。 その場で出会った人や落ち合った友人と一緒にいることの方が好き。今の旅だって寂しくて死にそうになったりする。なんでもない話とかすごいしたくなる。そして電話とかメールとか出会った人とのお喋りで誤摩化す。

単 純に誰かと計画を立てる、というのが苦手なのだと思う。最中も誰かが地図係になったり、誰かが寝坊をしたり、誰かがここ行きたいってうるさかったり、誰か がイエスマン過ぎたり、もっと言えばお金の使い方や時間の使い方が違ったりと、ちょっと色々めんどくさい。だからひとりを選ぶことが多いのだ。もちろんこ れまで何度も友人と旅行したことはあって、とても楽しいものだったしまた行きたいと思う。喋り相手はいるし、感動も寂しさも分かち合えるし、振り回したり 振り回されたり。ひとりで出掛けちゃう人って人一倍気にしいなだけだと思うんだよなあ。図太い精神があったら誰がいたってストレスにならない。

私 がもし友人と一緒に旅行中で、どこかに忘れ物をして引き返さなきゃいけなくなったら、非常に申し訳なくて胸がキューッとなる。自分がされたら仕方ないので 戻ろう大丈夫だよ、とはなるんだけど、当事者だったら耐えられない。そういえば待つのは平気なんだけど待たせるの苦手だ。

父はその気があって、逆に母は良い意味で図太い。だから半世紀ひとり旅をしなくても良かったんだと思う。別にね、私もお父さんもひとりが好きだからやってるわけじゃないのよ。でもどこか行きたいから行くの。お母さんに今度教えてあげよう。