新橋とグレーセーター

その日はひどく緊張していたし、GUのセーターを着てきた自分を呪った。憧れの人との夕食が突然決まったのだ。待ち合わせは新橋。一寸先は銀座、有楽町。その人はきっと、身なりの良いものを着てくるだろうと思っていたから、気後れをしていた。

雨の日、落ち合う。連れられてイタリアンへ行った。私はピノノワールを、その人はミモザを飲んでいる。緊張が解けなくて、すぐにグラスが空いた。

その人はグレーのセーターを着ていた。袖や首襟のきゅっと締まった、仕立の良い素朴なセーターだ。胸元にはラコステっぽい(ラコステではない)マー クがある。セーター1枚をこんなに上品に着こなせるのかと驚いた。世の中には引き締まった首襟が似合う人もいるのかと。わたしのGUのセーターはなんかも う、こんなにももう、じゃみじゃみしているのに。だらしない袖口を恨んだ。

その日は飛び乗った終電で寝落ちした。